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ある老人ホームでのお話です。職員は入居しているご老人が寝たきりにならないよう、ウォーキングやリクレーションなどを組み込んだ1日のスケジュールを提案し、それを日々実行していました。ところが、ある日いつものように声かけをすると
「今日は寒いし、腰も痛い。しんどいからやめておくよ」という返事。
 気持ちの優しい職員は「そうですか。今日は特に寒いから暖かく過ごした方がいいかもしれませんね。それじゃあ今日はベッドでテレビでも見ながらゆっくり体を休めてくださいね」と部屋を立ち去りました。
 そして翌日。ご老人はまた「ベッドで過ごしたい」と訴えました。次の日も、その次の日も…。翌週になると職員の声かけは1日おきになり、そうしているうちに半年が過ぎ、定期健康診断を受けた結果、骨密度が著しく低下しており、骨折の危険性が高いとのこと。半年前までなんとか自力で日常生活ができていたご老人。身体的にも精神的にも車イスでの暮らしになってしまったのです。
 なぜこうなってしまったのか。原因はどこにある?
 菩提寺のご住職が即答してくださいました。「家族にしか持ち合わせることができない愛がある。それを赤の他人の職員に求めること自体が間違っているんですよ」。
 職員の優しさは結局自己満足にすぎず、愛のないうわべだけの関係ではそれもやむを得ないこと。本当に愛していたら、本人のためになることをする、ということです。そういう愛のある励ましは受け入れる側の心にも響き、ともにがんばることができるでしょう。
 就労支援に置き換えても同じことがいえます。作業を教える側はそれが仕事。教わる側もそれが仕事。上を目指し、互いに心を通わせてがんばることが大事です。しかし、教える側はやはり自己満足の優しさを抱いてしまいがちです。「これは難しすぎるだろう」「この仕事は利用者の障害特性に向かないだろう」「もっと簡単な作業にしてあげよう」「一般就労は無理そうだからB型でいいだろう」…。こうしてハードルを下げることは、教える側が自分自身の仕事のハードルも下げているということ。「障がい者がひとりで生きていけるように」という愛のもとでも相反します。
 目指すべき就労支援とは、障がい者を特別扱いせず、社会人として自立するために必要な意識改革や努力を自ら行うことができる環境とサポートを提供することに他なりません。
 福祉行財政、福祉計画においても、上から目線で障がい者にお金だけをばらまいても「仏作って魂入れず」。障がい者が収益事業にきちんと参加できるようにすることが本当の愛であり、「稼ぐ力」が身に付く福祉計画こそが魂の通った福祉のかたちではないでしょうか。

2015-12-01 09:40

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